お魚くわえて

鍼治療が世界を変えるまでの記録

鍼灸と科学(1)「WHOで鍼灸は認められてるのは本当か?3つの問題点。」

みなさん、こんにちは。札幌市の手作業にこだわる鍼灸院、快気堂鍼灸院白石の谷地です。

 鍼灸って科学的に説明できるの?

[caption id="attachment_1210" align="alignnone" width="480"] By: Robert Couse-Baker[/caption]

鍼灸師をしていると、患者さんをはじめ、様々な人から「鍼灸って科学的に説明できるの?」と聞かれることが多々あります。

結論を言いますと、「鍼灸は科学的に証明されている部分もある」となるのですが、こういう説明をするときに、大きな問題となるのが、科学的に証明されているとはどういうことか?ということです。

言い換えれば、「どうしたら科学的と言っていいか」ともなります。

これを知らなければ、「鍼灸の科学的な説明」もできません。

さらに、科学的というのと医学的というのは、現在、全く別の定義になっています。

鍼灸と科学」って、とっても魅力的なテーマでよく話題になるのですが、この辺が曖昧なまま議論しても、結局、「科学に対するぼんやりとした期待」で終わってしまいます。

私は、鍼灸師でありながら、国立大学医学部の研究室に所属していたため、このテーマを嫌というほど考えさせられてきました。

そして、この経験は鍼灸師として大きな財産になりました。

患者さんに説明するためにも、あるいは、医師との連携のためにも、そして、鍼灸師同士での議論を深めるためにも、このテーマは重要なことだと思います。

そこで、シリーズ3回ほどに分けて、「科学的とは?」「医学的とは?」「鍼灸は科学で、あるいは医学で、どこまで証明されているのか?」ということについて私なりの考えを取り上げてみたいと思います。

医学部での苦闘。「それって、科学的なの?」

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医学部の研究室に所属している時、こんなことがありました。研究室の技師さんが腱鞘炎になってしまい、仕事を続けるのが困難になってしまったのです。そこは医学部。お医者さんは腐る程います。彼女は、まず整形外科の先生に相談しました。すると「診断は腱鞘炎です。なので、もう、どうしようもありません」と言われたそうです。それでも、なんとかしたいと、藁にもすがる思いで、鍼灸師である私のところに相談に来られました。

こういうシチュエーション、鍼灸師として燃えますよね!

では、治療させてもらいます!となったのですが、噂が広まり、たくさんのお医者さんが面白がって見に来ました。医学部の研究室で、お医者さんに囲まれながら治療するなんて、正直ありえないシチュエーションなので、緊張しまくり、汗だくで治療しましたが、幸い、良い治療効果を出すことができました。

そこで、医師の一人にこう言われました。「鍼灸って科学的な証拠はないけど、効果はあるよね」と。

私は、この発言に違和感を感じました。なぜなら、鍼灸の教科書には、なんとなく科学的なことが書かれていたことを覚えていたからです。

そこで、教科書に書かれていた「鍼灸による脳内オピオイドの変化(下降性痛覚抑制系)」や「鍼灸やマッサージによるオキシトシンの変化」、「ゲートコントロール」について説明を試みました。

しかし、返って来た言葉は、

「それって、科学的なの?」

でした。 そう言われてみると、「科学的」とはどういうことか、まったっく知らないことに気づきました。そこで、どうやったら鍼灸は科学的に証拠があると言っていいのか、私の探求が始まりました。

WHOが認めてるっていうけれど。

まず、初めに思い出したのが、「そういえば、WHO(世界保健機関)鍼灸が認められていたはず」ということです。

鍼灸院のホームページでも、WHOが鍼灸認めてるから効きますよ!と高らかに宣言しているところも多いですし、日本鍼灸師会のウエブサイトにもしっかりと掲載されていました(現在は修正されているようです)。

実技講習会 01 001

よく伝染病関連のニュースで名前が出てくるWHO。

医学の世界でも権威的な存在です。病気の定義なんかも発表していて、お医者様の診断はそれに従った形で行われます。

昨日まで、グレードが3だったガンが、WHOの発表で、今日からグレード4になる、なんてこともしばしば起こります。

医師によるカンファレンスでも、WHOの名前が必ず出ます。

その、お医者様さえも従うWHO様が鍼灸認めてるんなら文句もあるまい、と考えたわけです。

しっかりと説明できるように、私は原文にあたることにしました(科学的、医学的を考える際に、原文を読むことは非常に重要になってきます。)。

しかし、不思議なことが起こります。いろいろ調べても、原文が見つからないのです。医学論文のデータベースであるPubmedで調べると、WHOと鍼灸関連の論文はあるのですが、内容が全然違うのです。

なぜなんだろう?なんだ、このミステリーは?と子供の頃好きだった刑事コロンボ並みのしつこさで調べていくと、驚くような事実に突き当たりました。

WHO発表の問題点

[caption id="attachment_1212" align="alignnone" width="480"] By: Kate[/caption]

この発表、科学的・医学的根拠としては幾つか重大な問題があるのです。

それは

発表がなんと、1979年!のものなんです。

科学的データというのは、新しい物に価値があります。科学的に正しいとされていたものが、少し経つと、全く反対のデータが出て覆されることが度々あるからです。

科学捜査の代名詞として、99.9%間違いないなんて言われていたDNA鑑定が、現在の技術レベルで診てみると、全くでたらめで冤罪を生み出す元になっていたという、袴田事件なんてのも記憶に新しいところです。

もしかしたら、1979年に未来営業続く完璧なデータがそろっていたのかもしれません。しかし、だったらなぜ、追試の情報や、症状が追加されたり、あるいは減らされたりしていないのでしょうか?

それは、科学的に価値のないものだからです。

科学的価値をさらに貶める2つの要素

次の事実が科学的な価値のなさに拍車をかけます。

これ、論文のデータを参考に造られたものではありません。70年代に起こった世界的な鍼灸ブームに対応する形で、WHOが慌てて調査しただけのもので、鍼灸師の経験論が元になっちゃってるのです。

「鍼をしたら、あれもよくなった、これもよくなった」「あの先生、あれも治したって言ってたなあ」って話なら、なんでもありになっちゃいます。

さらに、発表当時、中国からWHOに相当な圧力があり、症状がだいぶ追加されたとのことです。

  1. 1979年の発表
  2. 経験論に基づく
  3. 政治的介入

と、科学的・医学的なものから恐ろしくかけ離れた要素満載のこの発表、科学的知識の乏しい人はごまかせても、公の場で資料として出すのには相当な勇気がいります。

WHOの発表は他にもある

Pubmedを調べると、WHOと鍼灸に関する論文は、あるにはあるんですが、上記の内容と全く違います。内容は、鍼治療が推奨される93の疾患が、推奨グレード別に4つに分けられた形で掲載されています。

推奨グレードの高いものには、頭痛や腰痛、アレルギー性鼻炎などお馴染みのものから、うつ症状など21種類あり、推奨グレードが低くなると、色盲や昏睡状態など怪しげなものまで出てきます。

引用元となる論文もしっかり掲載されています。

しかし、これも1996年にイタリアで開催された鍼灸会議の資料に過ぎず、科学的・医学的価値はあんまりありません。

よくEBMと言って、根拠に基づく医学!なんて言いますが、言われだしたのが1990年代。キチンとしたEBMの評価法や認証する体制が確立したのが2000年代に入ってからです。

1996年の資料だと、ちょっと古すぎるし、論文に掲載されている実験形式も、今の基準では信頼性に疑問が残ります。

ただ、無いよりはマシで、なんで、こちらが採用されず、1979年の発表ばかりが使われるのかが疑問です。英語の資料しか無いからかしら?

 もう一度原点へ

さて、頼りにしていたWHOの発表に価値が無いとしたら、どうすれば良いのでしょうか?

科学的価値の高いものを探すには、もう一度、「科学的に認められるとは何か?」をはっきりさせなけばなりません。

次回は、「科学的と評価される」にはどうしたら良いかについて考え、鍼灸は科学的にどう評価されているか、についてもお届けしたいと思います。

続きはこちら

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