お魚くわえて

鍼治療が世界を変えるまでの記録

科学と鍼灸(2)_理系男子のハートを掴め!クールな彼を振り向かせる4つの作法

みなさん、こんにちは。札幌市の、春には野イチゴがなる鍼灸院、快気堂鍼灸院白石の谷地一博です。

(前回= 鍼灸と科学(1)ーWHOで鍼灸は認められてるのは本当か?3つの問題点。

科学と鍼灸、第2回目は、「科学的に証明されている」とはどういうことかについて、取り上げてみたいと思います。

「ガンが治る」「アトピーが治る」?健康ブームは嘘だらけ?

最近、空前の健康ブームだと思います。

「ガンが治る」「アトピーが治る」「飲むだけで痩せる」など、小保方さんもびっくりするような効果を謳う怪しげな水や食品、サプリメントや機械、健康法が巷に溢れています。

[caption id="attachment_1239" align="alignnone" width="480"] By: Clean Wal-Mart[/caption]

それらの宣伝を見ると、もっともらしく「科学的にも〜」なんて謳い文句があり、データっぽいものも出されたり、それらしいカタカナ語の成分の名前が書かれ、効果のメカニズムを説明する図があったり、大学教授の推薦文なんかも載ってたりします。

さて、問題です。このように、データがあって、メカニズムが解明されていて、偉そうな人が認め、本が出ていたり、テレビで紹介されていたりしたら、「科学的な信頼度」はどれくらいでしょうか?

答えは、信頼度はほぼない、です。

なんで科学っていうの?

一つお断りしておきますけど、科学が絶対か?というと決してそうではないと私は思っています。科学を超えた力だって、たくさん存在すると思っています。

ただ、科学的根拠はないのに、科学的な感じを装って説明するのがダメだと思うのです。だって、それって詐欺でしょう。科学的根拠がないなら、そういえばいいんです。「科学を超えた力だから、証明できません、でも、効くんです」って潔く言えばいいじゃないですか。そうしないのは、科学的思考が得意ではない人をだまくらかして、お金を儲けようとする意図があるんじゃないかと、勘ぐりたくなります。

鍼治療は違うって言えますか?

さて、鍼治療です。怪しげな健康商品を笑っていられません。

科学的根拠を提示しないまま、科学っぽいことを言っていては、詐欺まがいのものと大差ありません。社会的に医療としての信頼を得るなんて永遠に不可能です。

「科学的に証明されている」とは?

では、「科学的に証明されている」条件とはなんでしょう?

それは、「科学的に信頼できる論文がある」ということです。

そして、この論文の科学的信頼性を保証するのがNatureScienceなどの科学論文雑誌です。

Nature

論文は、書かれただけでは価値がありません。科学的に妥当かどうかの審査を受ける必要があります。この審査をしているのが、科学論文雑誌です。権威ある論文雑誌は信頼性を落とさないために、何人もの専門家に頼んで、厳しく論文のチェックをします。権威が高ければ高いほど、論文のチェックは厳しくなり、そのチェックを通り、論文が掲載されれば、高い科学的信頼を得られます。

この雑誌の権威も、インパクトファクターなどの指標で数値化されていたりします(さすが科学)。

(科学を語る詐欺っぽいものがあったら、まずキチンとした論文があるのか?そして、インパクトファクターの高い科学雑誌に掲載されているかをチェックしましょう! )

さて、数多くある論文雑誌の中で、長年この権威の頂点に君臨してきたのが、Nature、Science、Cellという雑誌です。

Obokata

小保方さんはNatureに掲載されました。だから、大事件なんです。Natureという一番上の権威に認められてしまい、科学者としては一流のお墨付きをもらってしまったんです。だから、ニュースになるのです。

 鍼灸と科学

では、鍼治療に関して、どんな科学論文があるのでしょうか?

医学系の論文のデータベースであるPubmedでacupuncture (鍼治療)を検索してみると、24274の論文のヒットがあります。この中から、インパクトファクターの高い雑誌に掲載された、次の3つを紹介したいと思います。

  1. Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture.

Goldman N

Nat Neurosci. 2010 Jul;13(7):883-8. doi: 10.1038/nn.2562. Epub 2010 May 30.

2. Organization of endogenous opiate and nonopiate pain control systems.

Watkins LR,Mayer DJ

Science. 1982 Jun 11;216(4551):1185-92. 

3. Dopamine mediates vagal modulation of the immune system by electroacupuncture.
 
Terres-Rosas R

 

 
 

どうですか?Nature系で神経分野の専門誌であるNature Neuroscience、医学研究者の憧れで同じくNature系のNature Medicine!、そして自然科学の巨人Scienceで鍼の研究論文が掲載されているわけです。これは、インパクト大きいでしょう。 研究者って忙しんですよ。自分の専門分野の最新の論文が毎日、山のように発表され、重要なものは読んでおかないと、研究者として取り残されてしまいます。だから、専門分野以外のことについては、よっぽど興味がないと、知る暇がない状態です。 だから、多くの研究者は、「鍼治療?、どうせ民間療法の一つで、科学的裏付けも乏しいんだろうな。論文も、あっても怪しげなのが業界誌に載ってる程度だろう」と思ってても仕方ないわけです。

北斗の拳でいうと、鍼灸は医療業界に群がる有象無象の雑魚のうちの一人って感じでしょうか

 
雑魚01
 
 
しかし、上の3つの雑誌は東大医学部の研究室でも滅多に論文が載せられないほどの存在です。
 
なので、
 
「いや、2014年のNature medicineに、鍼のこういう論文がありまして、、。」なんて話をすると、、、
 
Raou001
 
「あれ?雑魚だと思って相手してたら、ラオウ出てきちゃったよ!!」って印象になります。
それだけインパクトがあるので、鍼治療に関して、研究者に興味を持ってもらうきっかけになると思います。
 
興味を持ってもらったあと、東洋医学の不思議な世界を語るのも良いでしょう。いきなり、気や五行の話をしても、有象無象だと思われていては、怪しさが増すだけで、聞いてもらえませんからね。
 
せっかくなので、上の3つの論文の内容について、ごく簡単に触れたいと思います。リクエストがあれば、他の機会にもっと詳しくお伝えしようとも思っています。
 

理系男子を振り向かせる会話術、4つのポイント。

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ちなみに、科学的なお話をするときに、論文を紹介するための作法があります。
これを守れば、普段はクールで不愛想な理系男子も、あなたに興味を持ってくれるかもしれません。
 
理系男子には、次の情報をこの順番で与えてあげましょう。
  1. 論文が発表された年、あるいは雑誌の号数など
  2. 雑誌名(インパクトファクターの情報もつけてあげれば、さらに好感度UP!)
  3. 著者名 (研究機関名も加えてあげればベター。思わぬ出会いがあるかも!)
  4. 論文の内容
これを守れば、あなたもグッと科学者っぽくお話ができ、理系男子のハートも鷲掴み!なはずです。それ以外の人には、うざがられるでしょうが。
 
では、作法に則って3つの論文の紹介です。
 

鍼に関する代表的な論文3選

 
1. は2010年のNatue Neuroscienceにアメリカ・ロチェスター大学医学部のゴールドマンさん達が発表した「鍼刺激による局所鎮痛のメカニズム」についての論文です。
 
簡単にまとめますと、鍼を体に刺すと、そこにアデノシンという物質が発生します。アデノシンは、A1レセプターと結合します。A1レセプターは、脳にある、局所の痛みを感じる部分の活動を抑えるスイッチの役割を果たします。よって、鍼を刺すと、局所で痛みを抑えることができるのです。鍼治療による局所鎮痛の根拠となる論文です。
 
2. は1982年のScienceにコロラド大学のワトキンスさんとメイヤーさんがScienceに発表した「鍼刺激による下降性痛覚抑制系のメカニズム」についての論文です。
 
発表は1982年と古いですが、鍼治療の論文には必ず引用される大事な論文なので、取り上げました。研究者に話すときは、「1982年とちょっと古いんですけどねー」と自虐的にはにかんだ笑顔で紹介すると、可愛げに見えるはずです。
 
内容は、おなじみのやつです。体に鍼をすると、脳に信号が入って、麻薬のよな物質(オピオイド)が発生し、その影響が脳から脊髄に降りてきて、脊髄にあるある痛覚が入ってくる入り口の神経がお休みするので、痛みを感じにくくなる、といった内容です。鍼治療による、全身での鎮痛効果の根拠となる論文です。
 

3. は、ラトガース大学のトーレス・ロサスさんという免疫学のスペシャリストが2014年にNature medicined で発表した、「敗血症が鍼治療で治る」という小保方さんもびっくりな論文です。

体の中にバイキンが入ってきて、体の中の免疫細胞の一つであるマクロファージと反応し、炎症性サイトカインという物質が大量にできてしまうと、敗血症になります。鍼をすると、迷走神経が反応し、副腎髄質から大量のドーパミンが放出され、炎症性サイトカインの発生を抑え、敗血症を抑制するという内容です。鍼治療とは関係のない、免疫分野のスペシャリストが、敗血症のメカニズムを調査する上で、鍼治療の機序に注目したところが、興味深いですね。
 
これは、鍼治療の免疫系への作用の根拠となる論文になると思います。

大団円!ハッピーエンドや!と思いきや

以上、ざっと紹介してきました。
 
鍼治療、科学的に研究されてんじゃん!これで、医療との連携の道筋が完璧に見え、、、、、ればいいんですが、ことはそう簡単に運ばないのが世の常です。
 
これまで紹介したのは基礎科学の分野になります。残念ながら、EBMというものが浸透してから、この、基礎研究の結果というのは、医学的な評価がかなり低くなってしまいました。科学的というのと医学的というのがかけ離れてしまったのです。
 
なんか、振り出しに戻ったようで、悲しいですが、これを踏まえないと次の段階には進めません。とりあえず、理系男子とコミュニケーションできるようになったのと、科学を語る詐欺を見分けられるようになったのを良しとして、希望を持って前に進みましょう。希望がる限り道は開かれるはずです。
 
ということで、次回は、「医学的に評価される」とはどういうことか、考えてみたいと思います。