前回までの群馬
日本に遺された最後のワンダーランド、群馬県に潜入した私と小松田氏。
某有名鍼灸院Yの院長M氏の案内で『ホテルK』に到着。
しかし、そこには従業員の姿がなかった。困惑する私達に、M氏が静かに「ホテルK」について語り始めた。
「朝食サービス」に隠された暗号を解き明かせ
M氏の説明が続きます。「ここをよく見てください。」
M氏が指さした紙には『朝食のサービスは6:50〜8:00です。』と書かれています。
「これのポイントは、あくまで朝食はサービスだということです。バイキング形式なんですが、ちょっと遅めに行くと食べるものが無くなってしまいます。追加はないのかスタッフに聞くと、あくまでサービスだからある訳がない!と怒られます。確実に6時50分に朝食を食べるようにしてください。」
第二次世界大戦中の日本軍は、補給について考慮せず進軍したので、多くの餓死者を出し戦争を続けられなくなりました。冒険先で食糧が補給できないのは、致命的な事態になります。
私は小松田氏とともに「わかりました。」と深く頷きました。
続いて、M氏の案内で、指定された各自の部屋に入りました。
世界に1つだけの朝食
入ってまず目についたのは、入口脇に置かれたフマキラーAでした。
この部屋で、万が一、大量の虫に襲われても大丈夫なようにとの心遣いが染み入ります。
そんなに虫が出るのか?という不安は、MMRの申し子としては恥ずべき心の迷いです。
一旦深呼吸をし、心を落ち着けましたが、テーブルの上に置かれたモノを目にした瞬間、人生で初めてUFOを目撃した時と同等の衝撃に私は襲われました。
そこには、メッセージが書かれた紙とともにセブンイレブンの買い物袋が置いてありました。
紙にはこう書かれていました。
いらっしゃいませ いつもご利用ありがとうございます
朝夕の食事の用意が無く
誠に申し訳ありません
朝食用のパンを置いておきます 少しでございますが どうぞ
K
コンビニ袋の中には、ヤマザキパンのナイススティック一本と缶コーヒー「Fire」が入っていました。
なんと突き抜けた朝食でしょうか。
これなら無い方が良いのでは?という一般ピープルの疑問を凌駕する「でも、やるんだよ」のオモテナシ精神。
完敗です。グーの根も出ませんでした。
温故知新
部屋は、ほとんど何も無いミニマリスト好みのシンプルさですが、液晶テレビはきちんと備え付けられていました。
料金は30分300円と少しお高めな気がします。
スマホ全盛の現代、若者はテレビを見なくなり、テレビを所有しない人も増えているといいます。そんな若者にとって、テレビは稀少なガジェット、30分300円も惜しく無い価値があるのかもしれません。
さらに、テレビにはVHSのビデオが接続されていました。
下手すると若い人たちは、これが何のマシーンなのか分からないかもしれません。そんなヴィンテージマシンを惜しげもなく全ての部屋に標準装備している、ホテルKのセンスには恐れ入ります。
もちろん、VHSテープがないので見られませんでしたが。
こだわりの大浴場は顧客の満足度UPにつながる
部屋に続いて、M氏が洗面所、そして大浴場と案内してくれました。
洗面所にも大浴場にもフマキラーAが設置されていた事で、私の弱い心の中に不安というモンスターが鎌首をもたげ始めましたが、素数を数えて事なきを得ました。
大浴場の脱衣室には、簡易サウナが設置されていました。
サウナボックスの入口は高さが150cmほどしかなく、塗装もハゲておどろおどろしい雰囲気を醸し出し、ここに入ったら焼死体にならないと出てこられないのではという、臆病者の妄想に取り憑かれそうになりました。
小さく書かれた「故障中」の文字を見つけた時には、残念という感情よりも先に安堵の溜息がもれ、まだまだミステリーレポーターとしての修行が足りないと自分を戒めました。
また、「露天風呂」との表示があったので、胸高鳴りましたが、現在は閉鎖中のようでビニールのカバーが掛けられていました。
幽霊ホテル
その後、渡り廊下を渡った先にあるゲームセンターを紹介していただいた所で、M氏はお役御免となり帰宅されました。
その後、部屋に帰ろうと小松田氏と渡り廊下を歩いていると、突然小松田氏が「ヌオー!!」っと叫び、合気道の構えをとりました。(小松田氏は合気道の師範です。)
何事かと思い、戦闘態勢に入った小松田氏の視線の先を辿りました。すると、渡り廊下の突き当たりの壁に怪しい人影が見えました。
渡り廊下は終点が下り階段になっています。つまり、壁の人影は宙に浮いている状態なのです。
「女の幽霊!?」と色めき立ちましたが、よく見ると着物の女性を描いた等身大の日本画でした。
深夜、薄暗い渡り廊下の先にこれがあったら、小松田氏が声をあげるのも致し方ありません。
このようなちょっとした悪戯心が宿泊客を飽きさせない秘密なのでしょう。
オーシャンビューを越える〇〇ビュー
自分の部屋に帰った私は、タバコ臭い空気を入れ替えようと窓を開けました。
目の前には、見事な露天風呂の風景が広がっていました。
現在、封鎖はされていますが、巨大な自然石を組み合わせて作られた自慢の露天風呂を自室から眺められるとは、なんて素敵な部屋なんでしょう。
ただ、私は知らない男性の裸体を眺めながらリラックスするハートの強さを持ち合わせていなかったので、心底、露天風呂が閉鎖中で良かったなと思いました。
気がつくと、午前3時近くになっていました。2日目も、早朝から某鍼灸院を見学させていただく予定になっていたので、慌てて床につきました。
つづく