お魚くわえて

鍼治療が世界を変えるまでの記録

閉塞した世界と戦え!!未来型サービス構築への挑戦〜抗いがたい群馬の魅力③〜

前回のお話

群馬の「ホテルK」にて、次元を越えたサービスを体験した私と小松田氏は「顧客目線」という言葉についてどれだけ自分たちが無知だったかを思い知らされる。幽霊騒ぎも一段落し、時計を見ると午前3時。フマキラーAをお守り代わりにして、二人は床につくのであった。

散歩という名のトリップ

就寝後、ホテルKの素晴らしい環境のおかげか、2時間で目が覚めました。

せっかくなので、旅をした時の恒例である散歩にでかけることにしました。

正味30分ほどの散歩でしたが、群馬の異世界ぶりをたっぷり堪能しました。その片鱗をご紹介します。

まずは、こちら。

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ホテルのそばにあった「癒しカフェ ドラッグトミー」。

どんな薬物を提供いただけるカフェなのでしょうか。

残念ながら、早朝なのでお店に入ることはでず、真相解明には至りませんでした。

万が一、実生活のプレッシャーに負け、超越した存在に身を任せたくなったら迷わずここを訪れたいと思います。

霊験あらかたな神社も見つけました。

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小さい神社ですが、境内に木が豊富な公園があり、とても良い気に溢れている印象です。

ただ、入口にある銀色のポールが、宇宙と交信するためのアンテナに見えてしまうのは、旅気分で興奮した私のうがった見方なのでしょうか。

食の王国 群馬

ホテルKの裏には、美味しそうな飲食店がありました。

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看板を見たときは最初『カルメン』と見間違えて、ずいぶん情熱的な店名だと思いました。が、よく見ると『カレメン』でした。

カレーとラーメンで『カレメン』。

国民に絶大な人気を誇る2大食品をフュージョンした店名、飲食店としてこれ以上のネーミングがあるでしょうか。

1つだけ気になったのは、10数台あるカレメンの配達用と思われる軽トラックが、全車両ナンバープレートが外されている上に、タイヤの空気が抜けていたことです。

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一時代を築いた配達用トラック達も、新たな時代の流れに合わせてリニューアル中なのかも知れません。

30分ほどウロウロし、お腹もすいたので、ホテルKに帰って朝食のナイススティックをほおばりました。

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口に広がるクリームのクレイジーな甘さが、睡眠不足の脳を覚醒させます。普段は飲まない缶コーヒー(FIRE)を一気に胃に流し込み、朝食は完了しました。

今まで経験したホテルの朝食の中で、最も短時間で済ますことが出来ました。なにかと時間に追われる現代人にとっては、ありがたいサービスかも知れません。

育ちの違い

午前8時を過ぎた頃、小松田氏と一緒にチェックアウトに向かいました。

ホテルのロビーには従業員はいません。チェックインからこの時まで、一度も従業員に遭遇していません。

はて、どうしたものかと周りを見渡すと、カウンターの奥に上り階段があり、「2F管理人室 オーナールーム2F」と書いた案内板が壁に貼ってあります。

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さらによく見ると、「スタッフ呼び出し」と書かれたチャイムボタンがカウンターの上にありました。

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一縷の望みを持って何度か押してみましたが、誰かが来る気配はなし。しょうがないので、カウンター備え付けの電話でオーナールームの番号にかけてみました。

10コールほど鳴ったところで男性が出ました。

受話器からは「ぅぅぅ、はい?ぅぅぅ」と、苦しそうな声が聞こえました。

私が「チ、チ、チェックアウトお願いしたいんですけど」とおそるおそる言うと「ぅぅぅ、ちょっと、まってて、、、ぅぅ」と男性は答え、電話が切れました。

それから5分ほど待ちましたが、何も起こる気配がありません

暇をもてあまし、ふと玄関の方に目をやると、ホテルのスリッパが脱ぎ散らかされていました。

従業員がいないので、注意する人もいないし、整頓する人もいないので、このような惨状になっているのだとぼんやり考えていました。

すると、突然、松田氏がその巨軀をひざまずかせ、スリッパを整頓し始めました。

これには、驚きました。「他人が脱ぎ散らかしたスリッパなんか放っておけばいい」なんて考えていた自分の薄汚さとは対照的に、なんて育ちの上品な方なんだろうと小松田氏をじっと見つめてしまいました。

小松田氏は照れくさそうに「いんやー、わし、合気道では礼儀が大事だって、いっづも道場の子供達に言っでるがら、こいうの気になるんだわ」と言っていました。

チェックアウトの攻防

そんな会話をしていると、階段上のオーナールームであろう部屋から、トイレの水が流れる音が聞こえました。いよいよ何か出てくるか!と期待は膨らみましたが、再び静寂な時間が5分ほど続きました。

時間に余裕を持って行動することの重要さを噛みしめていると、オーナールームらしき部屋のドアがガチャリと開きました。

「コーホー、コーホー。」
ダースベーダーの呼吸音のような音が響きます。

音の主は、扉を開けて出てきた初老の男性でした。「コーホー、コーホー」と呼吸をする度に折れ曲がった腰が大きく上下しています。

男性はこちらに向かって進み始めました。階段を一段降りるごとに「コーホー・コーホー」と息を整えます。あまりにも苦しそうで、医療に携わるものとして耐えがたいモノを感じます。

やっとの事でカウンターにたどり着いた男性。

「どうしたの?」と聞かれたので、「チェックアウトお願いしたいんですけど、、」と私が言うと、「ちょっと待ってて」と言って、再び2階の部屋に苦しそうに戻っていきました。

体が悪いのに、これほど手間をかけていただくオモテナシが他にあるでしょうか。男性はペンと帳簿らしきモノを持って、再び苦しそうに、ゆっくりとカウンターに戻ってきました。

帳簿に住所と名前を書き、やっとお会計です。

宿泊費は4,095円でした。

これだけのサービス、おまけに朝食サービス付きでこの値段は破格だと思います。

小松田氏が5000円札を出すと、オーナーらしき男性は「ちょっと待ってて」と言って、苦しそうに廊下の奥にある部屋へ入っていきました。釣り銭がそこにあるのでしょう。

帰ってくるまで、5分ほどかかりそうです。不安になったのは、私も丁度のお金がないことです。私のお会計でもこのシークエンスを繰り返すと思うと、ちょっと目まいがしました。

なんとか細かく払いたいと思いましたが、どうしても5円玉がなく、1円玉も4枚しかありません。申し訳ない気持ちで4,100円を出すと、オーナーらしき男性は「ちょっと待ってて」と言い残し、「コーホー」と再び廊下の奥の部屋へ入っていきました。

どんなに苦しくても、一人一人きちんと別々にお会計する丁寧さ。ぶっきらぼうだけど愛を感じる接客に感銘を受けました。

高品質なサービスの提供、その裏で、、

人生最長のチェックアウトも無事終わり、玄関を出て歩き始めると、名残惜しさが不思議と心に溢れてきました。振り返り、もう一度見つめたホテルKの壁には、ペンキで大きく「パート・アルバイト 募集中」と書かれていました。

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ホテルの顔であるはずの表通りの壁に、消すのが一苦労のペンキで描いてしまうほど慢性的な人手不足なのでしょうか。

我々があれだけ快適に過ごせたということは、従業員は相当ブラックな労働を強いられているのでしょう。
ディズニーランドも、過酷な労働条件で離職率が高く、常にスタッフを募集していますが、それと同じ状態なのかも知れません。

格安で高品質なサービスの裏には、誰かの自己犠牲が隠されています。これはホテル業界だけでなく、飲食業、接客業、介護職、そして私の携わる医療の世界にも共通して存在する構造的問題です。

この解決策が見つかったとき、日本はさらに豊かな国となるんでしょうね。

そのためのヒントが、この「ホテルK」にあると思います。

原爆の被害に遭った広島県物産陳列館が、原爆ドームとして反戦のシンボルとなったように、「ホテルK」も21世紀労働問題のシンボルとして親しまれる日が来るかも知れません。

そんな日が一刻も早く訪れるように、経営者の端くれとして決意を新たにしました。

小松田氏を見ると、やはり、決意に満ちた表情をしていました。

そのとき、小松田氏と視線が合いました。そして、どちらからともなく走り始め、二人同時にこう叫びました。

「俺たちの戦いは、始まったばかりだ!!」

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 第一部 
谷地一博先生の次回作をお楽しみに!!