お魚くわえて

鍼治療が世界を変えるまでの記録

ボーエン病(皮膚ガン)体験記

皮膚がんの一種、ボーエン病に罹患しました。4月28日に手術を終えて、経過は良好です。

せっかくの貴重な経験なので、体験記を残しておきたいと思います。突然ホクロができたりして、不安を感じている方の参考になれば嬉しいです。

最初の異変

最初に「変だな」と思ったのは2019年6月の頃です。左手の中指の爪の付け根にいつの間にかホクロができていました。そして、何だか日に日に大きくなっている感じがしました。 f:id:osakanakuwaete:20200516175424j:plain

ホクロの急激な変化はメラノーマという悪性腫瘍の可能性があります。

マンガ「巨人の星」に、主人公・星飛雄馬の初恋の人、日高美奈さんがメラノーマで若い命を失うというエピソードがあります。小学生の頃読んで以来、肝心の野球のエピソードは忘れても、この美奈さんの話はずっと心から離れませんでした。そのため、小心者の私は相当ビビりました。

問題解決!?

すぐにでも病院に行きたいところでしたが、この頃は、睡眠時間や休日さえまともに取れないくらい忙しい時期で、機会を逃していました。

あまりにも気になって、爪切りでホクロの部分を切り取ってみました。すると、すっかり綺麗にとれてしまったのです。「なんだ、皮膚の染みだったのか」と私は安心してしまいました。

問題再発

その後、問題なく過ごしていましたが、11月になると、中指の爪の付け根の同じような箇所にまたホクロができていました。それも、今度は2つ。

この時期も色々ゴタゴタしていて、自分の時間が取れる状況ではなく、ビビリの自分としては不本意ながら病院に行けませんでした。

そうこうしているうちに年が明けました。

伝家の宝刀が効かない

ホクロがあるだけではなく、沁みるような痛みが出てきたため、冷静ではいられなくなってきました。そこで、伝家の宝刀「爪きり」を使って、再びホクロのあるところを切ってみました。しかし、深くえぐるように切ってもホクロは消えませんでした。ホクロは皮膚の下まで黒い組織が根を張るように広がっていました。こうなるといてもたってもいられません。

幸いなことに、肉体的にも精神的にも負荷の大きかった仕事を年末に辞めることができたので、病院へ行く時間を取ることができるようになっていました。

あわてて、病院探しをしました。

皮膚ガン、病院選びのポイント

今回の目的は「メラノーマ」かどうかを調べることでした。メラノーマは皮膚ガンの一種なので、相談先は皮膚科になります。ただし、皮膚科ならどこでも良いというわけではありません。

同じ皮膚科であっても、湿疹などを内服薬で改善するのを専門とする先生もいるし、イボや癌などの腫瘍を外科的に切除するのを専門とする先生もいます。現代医療は専門の細分化が進んでいます。同じ皮膚科でも専門が違うと、素人目にも「どうかな?」という対応をされることがあります。

メラノーマを鑑別できる先生を探すときに指標にしたのはダーモスコピー検査です。

この検査は、ダーモスコープという特殊な拡大鏡でホクロかメラノーマかを鑑別するものです。

ネットで探してみると、なんと歩いて5分の近所にやっているところがありました。サイトには、皮膚にできた悪性腫瘍の手術件数も載っています。私の家は札幌市といえども、ハズレの方にあるので、専門性が高そうな皮膚科が近所にあるのはとてもラッキーでした。

最初の診察

ドキドキしながら初めの診察を受けました。先生が早速ダーモスコープを出してきたので、「これ、これ!これして欲しかったの!!」とちょっと嬉しくなりました。

 まず「うーん、よくわからん」と言われました。

先生は、心で思ったことを小声で正直に言ってしまうという傾向があるようです。ちょっと不安になりますが、逆に正直さは有り難くもあります。ぶっきらぼうな感じも相まって、職人気質をビンビン感じさせてくれるので、嫌いじゃないタイプでした。むしろ、信頼できると思いました。

先生によると、どういうわけか皮膚を切ってしまっている(爪切りで切った、、)ので、判断が難しいとのことでした。2週間したら、皮膚が治るだろうからまた来るようにとのことでした。ただ、「それほど大事には至らないものだと思うから、気にならないんなら急がなくてもいいよ、むしろ、しばらく来なくてもいいよ」といった感じでした。

2回目の診察

専門家が焦らなくてもいいと言ったので、ホッとしました。ホッとしすぎてそのまま結構時間が過ぎてしまいました。ふと指を見ると、2つのホクロが大きくなってきたので、前回から1ヶ月以上経過した3月2日に再び皮膚科へ行きました。

先生はまたダーモスコープを覗きながら「うーん」と言っています。唸りながら立ち上がり、一旦奥に引っ込んで、分厚い専門書を持ってきました。専門書には異常のある皮膚の写真がたくさん載っていました。

「あれ?簡単なやつじゃなかったの?」とちょっと不安になりましたが、同時に、結構経験のありそうな先生(後で調べたら、かつて某大学の教授も勤められていた)なのに、自尊心から曖昧な判断をせず、患者の前で専門書を調べる先生への信頼感が増しました。

「これは、生検の必要があるね」と言われました。

いきなり生検

生検とは、組織の一部を切り取り、病理医に依頼して詳細に検査することです。主にガンの疑いがあるときに行います。

病理医については、「フラジャイル」という漫画をお読み下さい。

やるなら早い方が良いので、その日のうちに生検をしてもらいました。中指に注射で麻酔をかけ、鉄製の細いストローのようなもので、指の組織を切り取りました。

指への注射は痛かったですが、麻酔が効いたので、組織を取る痛みはありませんでした。

先生の口ぶりではメラノーマではなさそうな雰囲気だったので、比較的落ち着いて生検を受けられました。しかし、組織を取り終わったときに先生が「ホクロだといいねぇ」とポツリと言ったのが、「え、メラノーマの可能性もあるの?」と勘ぐってしまい、ちょっと不安になりました。

診断名「ボーエン病」

生検の結果が出るまで1週間ほどありました。その間、あの「ホクロだといいねぇ」が何度も夢に出てきてうなされました。

そして、ついに結果発表。

「ボーエン病です」という診断が下りました。

ボーエン病というのは、皮膚にできる悪性腫瘍(ガン)の一種です。皮膚の中で水平に広がっていく特徴を持っています。深く潜り込んでいくタイプではないので、転移の可能性は少なく、早期に手術で除去すれば予後は良いガンです。それでも放っておくと、性質が変化して悪さをする可能性があるので、早めに取り除いた方が良いのは確かです。

究極の選択

ここで究極の選択を迫られました。

「手術はここでする?それとも大学病院紹介する?」と先生に聞かれたのです。

突然のことで、それぞれのメリット・デメリットがパッと思い浮かびませんでした。

ただ、【大学病院は研究・教育施設でもあるので、誰が執刀するのかわからない。下手をすると経験の浅い研修医が、、、。】ということだけ頭に浮かんだので、ここの皮膚科で手術してもらうことに決めました。

この決断は、結果的に良かったと思います。この後、新型コロナの感染拡大がありました。大学病院だと、人が多いので感染者が出る恐れもあるし、感染した方を受け入れることになると、ボーエン病の手術は後回しにされるかもしれません。その点、札幌の端っこにある小さな皮膚科なら、そう言った心配は少ないと言えます。

手術は4月28日に決まりました。診断から50日近く後です。

手術を心待ちに

それほど心配のないものだから期間を開けても大丈夫と分かってはいても、どうせやるなら早く終わらせたいのが人情というものです。

新型コロナのこともあり、万が一自分が感染したり、皮膚科で感染者が出たりすれば、いつ手術ができるかわかりません。

ネットで調べると、ボーエン病は範囲が広い場合、指を切り落とすこともあると書いてありました。左手なので、最悪、仕事(鍼灸師)は続けられそうですが、いろんな支障は出てくるでしょう。

不安な気持ちで50日を過ごしました。

手術

心配はしたものの、無事に手術の日を迎えました。手術は午後4時からだったので、時間まで仕事をしてから行きました。ありがたいことに、鍼灸院の予約が満杯で、ヘトヘトになりながら皮膚科に行きました。

先生から手術の説明がありました。

  • 生検の時とは違う麻酔を使う。

  • 中指の付け根に麻酔を2本注射する。

  • 血が出ないように指をゴムで縛って手術する。

  • 手術のキモはいかに薄く切るか。それが難しい。(難しい!?)

  • 切る範囲は爪の大きさぐらい。

  • 切った後は、縫うには浅いし、皮膚移植するには狭いので、絆創膏をして自然に塞がるのを待つ。

ということです。

まず、麻酔の注射が2本打たれました。自分の感覚としては、うまく刺さっていないような気がしました。先生が試しに針を指に当てたら、痛みがありました。

「これは、まずい、、、、失敗したな」と、隠さず呟く先生。

麻酔をもう2本追加しました。今度はしっかり入ってきた感じがします。どんどん指が痺れ、冷えていく感じがしました。

仕事柄、抗がん剤の副作用で指が痺れたり冷たく感じる方の施術をさせていただく機会が良くあります。あの感覚って、こんな感じなんだ、と思いました。正直、気持ち悪くて、指の痺れに悩む方の気持ちが少し分かった気がします。

麻酔が効いてるのを確認して、いよいよ切除に入ります。感覚が全くないので何をされているかわかりません。

「あれ」「変だな」「よし」「こんなに、、」など、やや不安を感じる先生の呟きを聞きながら15分程度で切除は終わりました。

先生が「完璧にできましたよ」とテンション高めに言いました。あれだけ正直になんでも言ってしまう方なので、かなりうまくいったんだな、と安心しました。

切除された組織は病理に回され、しっかり病巣が取り切れたかを調べてもらいます。報告はこれからですが、まあ、先生が完璧って言ってるんなら大丈夫でしょう。 ボーエン病手術後

考えたこと

それほど深刻ではなかったとは言え、「癌になった」という事実は中々ズシンとくる体験でした。

メラノーマだったら、長期にわたって入院が必要だったら、切除部分が大きくて指が無くなったら、など万が一の可能性が頭を巡りました。

そのため、今後の仕事の方針や、生活について見直すいい機会になりました。

仕事については、自分がいなくても、鍼灸院がしっかりと社会に貢献できるような仕組みを作ることを目標としました。責任はもちろん持ちますが、「自分が、自分が」という部分をできるだけ無くしていこうと思います。代わりに、スタッフや仲間が安心して活躍できる環境づくりに注力していくつもりです。

そして、家族との時間をより大切にしたいと思いました。

「万が一死んだら」とリアルに想像した時に、不思議と家族への感謝ばかりが湧き出てきました。どうしようもない引きこもりだった自分が、幸せでいられるのも家族のおかげなんだと、改めて思いました。なので、家族との時間をより大切に感じました。

手術前後から、体調が優れない日々が続いていました。手術から2週間たち、やっと調子が戻りつつあります。新たに生まれ変わった気持ちで、また歩み始めたいと思います。